とみやま地名探訪:伊予ヶ岳

伊予ヶ岳は、御殿山や富山よりもやや低いもののその尖った山容から「房総のマッターホルン」などと呼ばれ、難所の鎖場を経て頂上に立つと近隣の山々とともに三浦半島や富士山まで見渡すことができます。
伊予とは、伊予国(愛媛)のことですが、四国には伊予ヶ岳という山はありません。では誰が伊予ヶ岳と名付けたのでしょう。当然、伊予国を知っている人のはずです。伊予から来たといえば、古代、阿波から安房に移り住んだ忌部氏のことが思い浮かびます。
阿波国から見える高い山は、いしづちさん石鎚山(一五〇〇m)です。恐らく平群にあった山頂の尖った山を見て「伊予の山みたいだ、伊予ヶ岳と呼ぼう」となったのでは・・・。
「いよ」には、谷が深く樹木が高くそびえるという意味があり、四国山地がそれに当たります。急峻な伊予ヶ岳も同じです。
その昔、とみさん富山には金や銀が出たところがあり、採掘者達はすくなひこなみこと少彦名命という霊力ある神を信奉していました。伊予ヶ岳山頂にはその少彦名命の石の祠があったそうです。
鞍馬の天狗で有名な京都・鞍馬の神社の祭神にも少彦名命が祀られています。そして偶然なのか伊予ヶ岳にも天狗が住むといわれ、千倉の小松寺まで行き悪さをしたという言い伝えまで残されています。
推理作家・笹本稜平氏の「山狩」(二〇二二)は、伊予ヶ岳に逃げ込んだ凶悪犯を地元警察が探索するという手に汗握る物語です。犯人は不思議な霊力に負けてか捕まってしまいますが、この山に住んでいた天狗も犯人探しに一肌脱いだのかもしれません。
(徳永忠雄)

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